【活動リポート】本格研究キックオフ公開シンポジウムのレポートを公開しました
2021年9月23日
最終更新日時 :
2024年2月7日
nagato
本格研究キックオフ公開シンポジウムを開催
マテリアル研究開発における
新たな探索スタイルの提案に注目集まる
9月16日(木)の10:00~12:00に、本プロジェクトのキックオフ公開シンポジウムがオンラインにて開催されました。
本シンポジウムでは、本プロジェクトの研究開発代表者である長藤圭介氏によるプロジェクトの概要説明と、4名の研究グループリーダである一杉太郎氏、小野寛太氏、知京豊裕氏、牛久祥孝氏による研究内容と役割の紹介がなされました。
また、本プロジェクトを含むJST未来社会創造事業「共通基盤」領域の運営統括を務める長我部信行氏、「材料」テーママネージャーの岡島博司氏を登壇者にお招きし、本プロジェクトの意義や期待される効果から日本が目指すべき研究スタイルに至るまで熱い議論が交わされました。
本シンポジウムの参加者は178名に上り、Zoomウェビナーのチャット機能、Q&A機能を利用した登壇者との活発な質疑応答が行われました。
当日の録画はYouTubeにて全編公開されています。
講演内容
< 運営統括挨拶 >
『JST未来社会創造事業「共通基盤」領域の紹介と日本の材料開発』
「共通基盤」領域 運営統括
Nobuyuki OSAKABE
長我部 信行 氏
株式会社 日立製作所 ライフ事業統括本部 CSO 兼 企画本部長
未来社会創造事業「共通基盤」領域は、革新的な知や製品を創出する共通基盤システム・装置の実現を目指し、「ライフ」「材料」「数理」の3カテゴリで運営している。本プロジェクトは「材料」テーマの探索課題4テーマが結束し本格課題へ移行した。
カーボンニュートラル・SDGsの実現が叫ばれる昨今、従来と同じ生産方法ではコストの高騰を抑えることができなくなるため、産業界全体で新しい材料への要求が高まってきている。日本はマテリアル研究開発分野において歴史的に複数の成功事例を誇るが、近年は他国の追い上げを受けている状況である。再びマテリアル分野の研究を日本が牽引していくために、従来とは一線を画した革新的な研究文化を形成していくことが、本プロジェクトの目的とするところである。
0:02:00~0:14:40(質疑:~0:18:30)
< 研究開発代表者説明 >
『本格研究の概要説明と各グループの紹介』
MEEP 代表研究者
Keisuke NAGATO
長藤 圭介 氏
東京大学 大学院工学系研究科 准教授
マテリアル研究開発においては、構造が分かっているだけでも無数の元素の組み合わせ:マテリアルマップが存在し、そのうち実際に物性の調査がされている材料はごく一部に限られる。これからは未開拓の材料を高効率に探索していくことが求められる「マテリアル大航海時代」が到来する。日本の強みである勘・コツ・経験を活かし、データ駆動型の研究が盛んに行われている他国を超える成果を生み出すために、自律化した探索システムとヒトのヒラメキの融合による新たな研究サイクルの構築に取り組む。 本プロジェクトはMEEP(ミープ)の愛称、3つの望遠鏡のロゴ(Cyber×Physical×ヒト/自律実験×自律計測×データ科学/自律探索×ハイブリッド研究×ナレッジシェアリング)を旗印に掲げ、電池材料を題材にKPI探索スループット1000倍を目指す。社会実装のためには、あらゆるマテリアル研究開発者の助言・助力が必須である。
0:19:00~0:32:50(質疑:~0:43:00)
< グループリーダ講演1 >
『マテリアル探索のためのオートノマスラボラトリの構築』
オートノマスラボ グループリーダー
Taro HITOSUGI
一杉 太郎 氏
東京工業大学 物質理工学院 教授
マテリアル研究者は長らく、仮説生成・材料作成・測定実験・データ検討をすべて行っていた。新しい研究スタイルにおいては、実験室を材料の作製から解析までの各装置からなる「システム」として捉える。ロボットによる作業の自動化と、機械学習による条件探索の自律化を組み合わせることで、高速に大量のデータを生産することを可能にする。研究者は、自動自律的に得られたデータ群を「俯瞰的」に検討することで創造的な発想が得られ、これを実験システムに還元するサイクルにより新たな発見に至ることが期待できる。 本研究グループは、自律的に真空成膜条件と材料の組み合わせを探索するシステムを開発し、無機材料の自律探索の有効性を示す。
0:43:20~0:54:00(質疑:~0:56:00)
< グループリーダ講演2 >
『マテリアル探索のためのマテリアルドックの構築』
マテリアルドックグループリーダー
Kanta ONO
小野 寛太 氏
大阪大学大学院工学研究科物理学系専攻 教授
実験の自律化においては、実験計画の自動策定による探索条件の決定、および実験データの自動解析による特徴的な結果の発見が肝となる。前者においては従来手法や研究者の固定概念に依らない合理的な実験計画により、測定の実施順や実験の終了点の最適化が可能となる。後者は、機械学習による数理解析と理論計算の統合により、研究者がデータ検討する際の意思決定を支援できる形で結果の提示を可能にする。 本研究グループは、これらの要素技術を備えた計測・機械学習・ロボティクスの各技術の複合的な方法論:マテリアルドックの構築を目指し、オートノマスラボGの装置と連携可能な多種多様な計測手法を開発する。
0:56:10~1:09:30(質疑:~1:13:50)
< グループリーダ講演3 >
『マテリアル探索のためのデータ基盤構築とインフォマティクス』
マテリアルデータ科学グループリーダー
Toyohiro CHIKYOW
知京 豊裕 氏
物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 特命研究員
マテリアルマップの効率的な探索のためには、既知のマップをキュレーションし次に探索すべき材料を提案することと、自動・自律実験によって探索済の領域についての知見を可視化し研究者の新たな気づきにつなげることが必要である。本研究グループではこれまでに実験結果のデータベース化に取り組んでおり、その方法論を用いて公開・或いは限定公開データベースを作成することで、複数の研究機関で相互に材料探索の知見を利用し探索の高効率化を図る。 本研究グループは、オートノマスラボGとマテリアルドックGで得られたデータを活用したCyber空間での材料探索システムの構築を目指すとともに、NIMS独自のデータセンターでのナレッジシェアリングのインフラ準備も進める。
1:14:20~1:27:00(質疑:~1:30:20)
< グループリーダ講演4 >
『マテリアル探索のための機械学習』
機械学習グループリーダー
Yoshitaka USHIKU
牛久 祥孝 氏
オムロンサイニックエックス株式会社 プリンシパルインベスティゲータ
本プロジェクトが目指す研究開発サイクルの要となる「自律化」は機械学習に支えられる。本研究グループは、MEEPに参加する複数の研究グループが持つ機械学習の知見と技術を統合し、「順問題と逆問題」「実験加速」「マルチモーダル理解」「物理的説明性」の4つのキーワードを解決すべきミッションに据える。マテリアル研究開発における機械学習の利用はAI技術開発分野の研究の方向性とも重なる部分があり、応用と基幹技術の両側面において成果が期待されている。
本研究グループは、オートノマスラボG・マテリアルドックG・データ科学Gで行き来するデータを説明可能なAIに組込み、材料探索により得られたビッグデータを可視化してヒトのヒラメキを誘発するための要素技術開発を通じて、本プロジェクトの横ぐしの役割を担う。
1:30:40~1:46:30(質疑:~1:54:10)
< テーママネージャ挨拶 >
『本格研究の社会課題に対する重要性と期待』
「共通基盤」領域 材料テーママネージャー
Hiroshi OKAJIMA
岡島 博司 氏
トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 先進技術統括部 主査/担当部長
従来日本で取り組まれてきたマテリアルズ・インフォマティクスは、欧米各国の事例の追検証にとどまっており、成果を産業の現場で実際に活用できていなかった。本プロジェクトが提案する新たな研究手法のサイクルが、国内産業の競争力を高め、実際に新しい材料の創出につながるものとなることを期待しており、産業界での活用まで至ることこそが本プロジェクトの成功となる。そのためには、参加するメンバーだけでなく、広く国内の研究者・企業が連携していくことが必要と考えている。今後の活動報告にぜひ注目してもらいたい。
1:54:30~1:58:50
参加者の声
- 質疑が多く、プロジェクトの内容への理解が深まった。
- 各グループの役割と連携方法がわかりやすかった。
- シェアリングと知的財産維持の両立は難しいと思うが、これからの研究では日本も避けて通れない道だと思うので、本プロジェクトに期待する。
- 今回は無機材料に絞っているが、有機材料や金属材料、プロセスの研究開発者にも通じる方法論として広まってほしい。
関連情報
JST未来社会創造事業「共通基盤」領域について
本格研究課題「マテリアル探索空間拡張プラットフォームの構築」について
- カテゴリー
- Symposium